【脳機能】記憶のメカニズム~シナプス可塑性とシナプス分子2

新たにものごとを覚えたり、新たな記憶の関連を作り出す(連合記憶)ためには神経の回路が変わることが必要で、その神経回路が変わる現象がシナプス可塑性というものだということを

【脳機能】シナプス可塑性で説明しました。

そしてシナプス可塑性が起こるときにはタンパク質の合成や新たに遺伝子が発現することが必要で、さらに最近の研究ではそれがシナプスの機能を調節している分子であるということがわかってきました。

神経活動によって出てくる遺伝子の中で一番早く出てくる遺伝子のことを最初期遺伝子といいます。

今回は記憶とシナプス分子について説明します。

 

 

連合記憶に関してはこちらをご参照ください。
宮下 保司 先生 (東大名誉教授・理研脳科学センター長)
図形対連合記憶課題

 

 

シナプス可塑性についてはこちらをご参照ください。

 

 

シナプス機能を変える神経分子機構

最初期遺伝子の1つにArcという遺伝子があります。

 

  • 神経特異的な最初期遺伝子(IEG)のひとつ
  • 脊椎動物(一部の魚類以上)で保存
  • 1コピー遺伝子であり、ホモローグ・ファミリー遺伝子は存在しない
  • 強いシナプス刺激後、素早く(数分以内)かつ一過的(数時間持続)に発現
  • mRna は神経樹状突起にも運ばれ、局所翻訳制御を受ける
  • 遺伝子産物である Arc タンパク質はシナプス後部に集積する

Arc の活動依存性に関してどのようなことが知られているかというと、例えばマウスをケージで飼育しているとします。海馬を免疫染色で染色して発現を見てみるとほとんど発現していません。このマウスを新しい環境に入れるとマウスはこの環境が安全な環境であるのかをさかんに探索します。そしてこの場所を記憶しようとします。そして数時間後に海馬をみてみるとArcタンパク質を発現している細胞が多くみられるようになります。

 

Arc 欠損によるシナプス可塑性の障害

ではこの Arc はいったい何をしているのでしょうか。

Arcを出している神経細胞がどのようなことをしているのかを調べるために、マウスの Arc という遺伝子を取り除いてしまうという遺伝子改変動物技術という実験がおこなわれました。

そのマウスは普段の行動は正常で食事摂取や生殖行動なども他と変わらずにみられていました。

ですが LTP において大きな異常がみられました。

 

▶LTP の異常

 

 

長期増強( LTP ) 長期抑制( LTD )に関してはこちらを参考にしてください。

 

 

通常の動物であればシナプスへの刺激後 LTP は一定の高水準で保たれますが、上図のように Arc 欠損マウスは刺激をするとその時点で非常に大きな LTP ができますが、3時間後にはベースラインよりも下がってしまうという現象がみられました。

また LTD も同様に刺激後一旦は減弱するものの数時間後には元に戻ってしまうという結果が得られました。

 

▶LTDの異常

 

ではこの Arc がシナプスの中で何をしているのでしょうか。、

まずシナプスの重要な機能として表面にあるグルタミン酸受容体というのが神経の伝達に非常に重要だということが知られています。

この Arc というのは、シナプスの伝達効率を制御するAMAP型のグルタミン酸受容体を中に取り込む働きがあるのではないかとうことが提唱されています。

 

Arc による神経回路の再編成

グルタミン酸受容体は Arc というタンパク質によって制御されています。

この Arc タンパク質はシナプスの刺激を受けると細胞の中に発現します。シナプスの刺激というのは記憶をしたり、経験をしたりしたときにおこる現象です。

出てきた Arc はどこへいくかというと、実はよく使われていて大きなシナプスにはあまり存在していません。 Arc はあまり使われていない、活動性の低い小さなシナプスに多く存在するということが研究でわかってきました。そしてその活動性の低いシナプスの中で表面にあるグルタミン酸受容体を中に引きこんでしまうということがわかってきました。(図の青い粒が Arc です。)

 

 

これによって何が期待されるかというと、よく使われていて大きくなったシナプスでは Arc は機能しないので、一度活性化されて強くなったシナプスはそれを維持し続ける。一方であまり使われていない弱いシナプスに Arc が溜まり、今まで存在したグルタミン酸受容体を少なくしてしまいます。
したがってあまり使われていない弱いシナプスはますます弱くなっていきます。

ということで、強いものを残して弱いものはさらに弱くするという強弱のコントラストを上げるような働きが Arc にはあるのではないか考えられます。
これがシナプスの回路の繋ぎ替えや再編成、つまり神経回路を変えることにつながっているのではないかと考えられています。

 

まとめ

一度獲得した記憶を長期に保存するためにはシナプスの神経回路、ネットワークの変化が必要です。この神経回路の再編成のためには、神経活動に応答して発現する Arc をはじめとする最初期遺伝子が重要な役割を持っています。

私たちの頭の中でシナプス可塑性が起こることによって、新しい経験を記憶できたり、またその出来事と過去の記憶を結び付けたりすることができています。

全く新しい動作や物事の獲得には時間を要するかもしれません。ですが、過去に「立つ」「歩く」などを一度獲得したことのある人であれば適切なリハビリ指導により過去の動作記憶との照合ができる可能性が非常に多くあります。

和(なごみ)リハビリは最新の脳神経科学に基づいた適切なリハビリを提供し、新たな学習をおこなうお手伝いをさせていただきます。

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