日本の薬はなぜ高いのか?社会保障を圧迫する医療費の動向

日本の医療費の動向 なぜ自費リハビリが必要か
医療費の増加に影響を与える薬価
  1. 目次
  2. 新薬開発と医療費の動向
  3. 医療費全体における薬剤費の占める割合
  4. 高齢化と医療費増加の関係
  5. 薬価と貿易の関係
  6. 医療に対してのヨーロッパの姿勢
  7. まとめ
  8. 参考資料

今回説明する「医療費」とは社会保障の医療費とは範囲が異なり、もっと広い範囲での医療費のことを指します。医療機関にかかる患者さんが窓口で支払う3割の分、また薬局で処方された薬を買う、これらを含めた国民医療費の日本の動向について説明していきます。

昨今の高齢化によって高齢者にかかる医療費が年々増加しているため日本の医療費が年々増加している。
それは確かに事実ですが実は医療費の増加の原因はそれだけではありません。

いのちは誰のものでも平等であり、医療に関しても平等に提供されるものでなければなりません。

この医療提供に関しての考え方は日本とヨーロッパとでは大きく異なる部分があります。

それが今回のコロナ禍によって浮き彫りとなりました。

今回は日本の医療費の動向と各国との比較について説明します。

新薬開発と医療費の動向

医療費の動向の表

出典:厚生労働省 令和元年度医療費の動向

上は少し古いデータですが平成27年から令和元年の日本の医療費についてのデータです。

直近5年間の動きをみてみると総額40兆円を超えてじわじわと上昇していることがわかります。そして平成28年は医療費総額が-(マイナス)になっています。動きとしては右肩上がりに上がっているはずなのにこの年だけ下がっています。伸び率も0.4%マイナスで金額にすると2000億円になります。

この平成28年にはいったい何が起こったのでしょうか。

この年の概算医療が出たときに厚生労働省がコメントを出しています。

平成27年の後半にC型肝炎の治療薬として「ソバルディ」と「ハーボニー」という薬が開発されました。そしてこの薬に高い薬価が付けられました。これがその年に大幅に使用されたことにより医療費が大きく伸びました。これに対して翌年の平成28年にはその使用が大きく減少しました。そしてそれに伴い薬剤料も大幅に引き下げがおこなわれました。つまり前年度に増えた分が翌年に減少したという訳です。

どれくらいの影響があったかというと平成27年の後半にこのC型肝炎の抗ウイルス薬が開発され半年でおよそ3000億の薬が使用されました。

つまり1つの薬が医療費全体の総額を大きく+(プラス)にしたり-(マイナス)にしたりする影響を与えているということです。

そして現実に高い新薬が出ると一気に使用される。そうなると薬価を下げる。そして使われなくなる。とこのような動きが毎年のように起こっています。

つまり新薬の開発が医療費を大きく増加させる要因となっています。そしてそれを減らすために国は薬価を操作しているということです。

医療費全体における薬剤費の占める割合

医療費のGDP比の表

出典:OECD資料

上のグラフは医療費の GDP 比を先進各国で比較したグラフです。

医療費全体の大きさ(オレンジ)を GDP と比較するとアメリカは断トツで医療費の規模の大きな国となっています。日本はアメリカの約半分で医療費は比較的小さい国であるといわれてきました。

これは日本の GDP があまり伸びていない、あるいは他のヨーロッパの国々の医療費が伸びていないというところもありますが、今や日本はイギリスを抜いてドイツやフランスと肩を並べるところまできています。したがって国際的にみると医療費の小さな国ではないという状態となっています。
そしてオレンジの棒のとなりの青い棒である薬剤費の比率をみてみると日本はアメリカと同じくらいになっています。日本は薬剤費の比率がかなり大きいということがこのグラフからもわかります。

薬剤費のGDP比の表

出典:OECD資料

上のグラフは薬剤費の部分だけ取り出したグラフです。

イギリスは薬剤費が分けられないためデータなしとなっていますが、先進各国のなかで日本の薬剤費の比率が一番大きいことが見てとれます。これはなぜなのでしょうか。

よく日本人は薬好きでたくさん薬をつかうから…などと言われたりもしますが、よく見ていくと薬の価格に大きな差があるということがわかります。

ひとつにはジェネリックがあまり浸透しておらず使われていないということがあります。ですがそれだけではなく新薬の薬価が極めて高いということがいわれています。

ジェネリックにしても日本の価格はヨーロッパの何倍という高価になっています。なので新薬と比べてあまりその値段に差はありません。使うメリットが無いためほとんど使用されていないという現状があります。

ただこのデータはいわゆる DPC のように込々になっている医療費の中の薬剤費はいったいどれくらいなのかということがよくわからないために、果たしてどのようにしてデータがつくられているのかがわからない部分があります。

だからこのデータは正確ではないという声も多くあります。ただヨーロッパなどの先進各国に行ってたとえば風邪をひいたとします。そして薬局で風邪薬を買うとその安さに驚かれると思います。薬局で一般に市販されている薬でさえ日本とは大きく異なる価格がついています。

日本で販売されている新薬で極めて値段が高いものを価格の安いヨーロッパで購入しようとすると、まだ認められていません。という答えが返ってくることが多々あります。日本の薬、医療は高度になっているといえばそういうことになるとは思いますが値段が高いということは事実です。

高齢化と医療費増加の関係

日本の医療費について問われると誰もが”高齢者は病気になりやすく治りにくい。その高齢者が増えることで医療費が増大する”と考えてきました。そしてこれが日本の常識でした。ですがこれは全くのウソではありませんが事実でもありません。

経年的に見ると医療費は年々増加しています。そして高齢化は年々進んでいます。なのでこの両者のあいだに因果関係がなかったにしても相関関係は成り立つということがいえます。

しかしそれがはっきりと言えるのは先進各国のなかで日本だけです。

高齢化と医療費の関係

出典:厚生労働省資料

上のグラフは高齢化と医療費の関係を表したものです。

アメリカは短年度で急激に医療費が増えていますがこれは明らかに高齢化の影響ではなく、医療の高度化の影響であるといわれています。

他のヨーロッパの国々はかなり複雑なうごきをしており、日本のようになだらかな右肩上がりはみせていません。

日本でもアメリカ同様に高額な薬の使われ方が医療費全体に大きな影響を与えているということがだんだんと明らかになってきました。

このようなことから医療費は高齢者が増えるからおのずと増えるのだと単純に考えることは、あまりにも本質からかけ離れているのではないでしょうか。

なので医療費の問題、医療費の抑制をどう考えるかといったときにストレートに薬価をどうするのかというところに行かざるを得ないといえます。

薬価と貿易の関係

C型肝炎の薬にしても一時話題となったオプジーボにしてもそうですが、非常に高額な薬を認めておいて次には大きく値下げするというかたちで医療費の抑制を図るということが実際におこなわれています。

ですがこれは有効にはたらくのでしょうか。

これらは多くの問題を抱えています。

オプジーボで問題になりましたが高額で売り出されたオプジーボは翌年には大きく薬価を下げました。もちろんC型肝炎の薬も同様ですがこれがなぜできたのでしょうか。

実はそれは日本の製薬メーカーが作った薬だったからです。つまり薬価を下げることができたのは比較的問題が少なかったからというわけです。

アメリカのような医療先進国は薬の開発に高額の資金をつぎ込んでいます。

これは国策といっても良いような環境でどんどん新しい薬が開発されています。

開発に関しては費用がかかってきますから薬価は当然高いものになります。

アメリカにしてみればこれを売らなければ儲けは出ないのでアメリカで使用するだけでなく世界各国に売り出します。日本にもアメリカで売られているのと同額で保険に収載するように圧力をかけてきます。日本としてはそのような高額な薬は使えないというとそれは貿易制限にあたると言い返されます。そしてそういうことなら日本の製品の輸入に対しても一定の制限をかけると言われます。そうなると日本の自動車やその他の日本の製品が売れなくなることになります。これを避けるため日本はある程度の要求は飲まざるを得ません。

そして一旦高い値段をつけて後から下げようとすると、やはりそれは貿易摩擦だと言われ輸入製品にハンデをつけることになると圧力をかけられます。そのためになかなか薬価をすぐには下げられないという現状があります。

医療に対してのヨーロッパの姿勢

ヨーロッパはスイスのような国を除けば新薬の開発はほとんどおこなわれていません。

それはなぜかといえば医療に対してはある程度のところで我慢しなければ仕方がないという考えが根底にあるからです。そしてもしそれが医療費をどんどん増やす要因になるというのであれば新薬を認めることも抑えていくという方向で動いています。

そのためアメリカや日本でつくられた新しい薬はもう輸入しない。保険として認めないという方向をしっかりと取っています。

オプシーボは日本での販売の翌年に約半額に薬価を切り下げました。

そしてイギリスでも採用されましたがその時の価格は日本の価格のさらにまた半額でした。安くダンピングしてくれなければ薬は買わないという姿勢をヨーロッパはつらぬいています。

それによって医療費を抑えようという動きがだんだん強くなってきているというわけです。

このような強気な姿勢が日本にとれるのでしょうか。

日本ではそれは貿易摩擦との関係になって出てきてしまうということで非常に難しい問題となっています。

まとめ

このようなことで薬価を大きく下げるということはなかなか難しくなっています。

ではヨーロッパの方向性のように新薬が出てもそれを保険では認めないということが日本で可能なのでしょうか。

そうなると結局非常に高い値段でも自費診療として通用するということになってしまいます。

オプシーボを例にとってみるともし「この薬を飲めば1年いのちが長らえます。飲まなければなくなります。」と告げられ、この薬は非常に高い薬ですが買いますか?と言われたときにどうなるのかということです。

いくら高くても払える人は買える、払えない人は買えない。これをそういう社会だから仕方がないといってあきらめるのかという問いになります。

いのちは平等なのでどれだけ皆の負担が重くなっても社会保障として、国としてやることが当然だと考えるのか。

医療の高度化はそういう分かれ道にまで来ているということです。

昨今のコロナ禍をみているとヨーロッパと日本の医療提供における考え方には大きな違いがあるということが浮き彫りとなりました。

このような意味で医療提供に対しての選択を我々はいま強くせまられている状況にあるということを考えていかなければならないのではないでしょうか。

参考資料




社会保障を問い直す

社会保障を問い直す:植村尚史

社会保障を問い直す/中央法規出版/2003.4.1/植村尚史著


若者が求める年金改革
―「希望の年金」への途を拓く


図表で見る社会福祉施設
の現状と課題


これでわかる医療保険制度Q&A
(シリーズ・暮らしを支える福祉の制度)

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