年金を受け取るためにはそれまでずっと保険料を払い続けていかなければならないというのが原則です。ではいったいどれくらい払わなければならないのでしょうか。金額だけでなくその払い方も1号・2号・3号でそれぞれ異なっています。
今回は年金の保険料についてわかりやすく説明していきます。
被保険者1号・2号・3号に関してはこちらをご参照ください。
2号被保険者の保険料
- 保険料
- 厚生年金 総報酬方式で 18.3%
- 国民年金 毎月 16,540円(令和2年4月から)
- 財政方式
- 積み立て方式と賦課方式
- ※現在は実質的な賦課方式で運営
2号被保険者は国民年金の第2号であると同時に厚生年金の被保険者でもあります。つまり二重加入していることになります。そして給付も基礎年金と厚生年金というかたちで両方の年金を受給することができます。
ところが保険料は国民年金の保険料部分と厚生年金の保険料部分というように分けて保険料を支払っているわけではありません。
その支払いは厚生年金に保険料を一括で支払っています。これで国民年金の基礎年金をもらうための保険料も一緒にまかなっているということになっています。
いくらの分が国民年金でいくらの分が厚生年金なのかの区別はつけていません。なのでいくら払った分が自分の年金になってくるのかがさっぱりわかりません。
これも年金制度がよくわからない、年金制度が信用できないということの1つの原因になっています。
ではいくら支払っているかというと厚生年金の保険料は定率保険料といわれています。給料の〇%というかたちで支払っています。したがって所得の高い人ほどたくさん払っているということになります。
この〇%というのはこれまでずっと引き上げがおこなわれてきました。そして平成29年の9月に18.3%になりました。これ以降現状引き上げは止まっています。
この18.3%の負担は本人と雇い主との半々ということになっています。なので本人が給料から天引きされている部分は18.3%の半分ということになります。
だんだん引き上げられてきた保険料率ですが、平成15年までは13.58%と横ばいが続いていました。そこから毎年自動的に9月に0.354%ずつ引き上げをするということが決まりました。このため保険料は毎年毎年値上げされてきましたが18.3%を上限としてもう引き上げをしないということが平成16年におこなわれた改正で決まりました。なので新たな改正がなければ18.3%で止まっているということです。
この18.3%は月々の給料からだけ支払っているわけではありません。総報酬方式なのでボーナスを含めた全ての所得から18.3%の保険料を支払うことになっています。
1号被保険者の保険料
1号被保険者は基礎年金の部分だけなので国民年金という制度に保険料を払います。
こちらは所得に関わらず定額の保険料となっています。年金の給付が従前所得に関わらず定額なので保険料も所得に関わらず定額ということになっています。この金額は毎月16,540円となっています。
国民年金には事業主がいないので半分ではなく全額本人が支払います。
この16,540円という金額も年々上がってきました。それまでは13,300円でしたがこちらも平成16年の改正から毎年280円ずつ上がるということになりました。
ですが年金の物価スライドがあると保険料も上げたり下げたりするということもあり280円ずつ上昇しているということでもありません。キチンとした計算方法もありますがなぜ現在の16,540円になったのかということはよくわからない部分があります。
この金額はこれからも引き上げされるのでしょうか。平成16年の時点では上限を決めてそれ以上にはしないということにしましたが、やっぱり足りないということになりました。そして平成28年に年金改革法が作られ、平成30年度以降もさらに毎年100円ずつ引き上げていくことになり現在に至っています。
年金改革法についてはこちらをご参照ください。
保険料免除
この金額を毎月払わなければならないということですが、第1号の中には学生やニートや失業者など所得のない人もいます。このような人たちには16,540円という金額はかなり重たい負担となります。
そのため所得が少ない、無い人には保険料免除という制度があります。
申請して認められれば保険料が免除されるという制度です。
では免除された期間の給付はどうなるのでしょうか。
免除された期間に関しては給付は2分の1となります。つまり保険料を払わなくても年金は半分はもらえるということになります。
基礎年金の半分は税金でまかなわれています。税金でまかなっている部分に関しての給付はもらえるということになります。この2分の1という割合ですが昔は3分の1の割合だったので昔の期間(平成21年度まで)に関しては3分の1しかもらえないということになります。
学生の特例制度
ただし学生については免除はされますが2分の1はもらえず0になります。これを学生の特例制度といいます。
学生の特例制度には全額は無理だけど半分なら払えるという人のための半額免除という制度もあります。半額免除の場合は給付は4分の3もらえます。さらに平成16年改正で多段階免除という色々な免除段階ができました。これらも半分のぶんは国庫だということでそれに見合った金額が支給されることになります。
学生の場合本人に所得がなくても親に所得があれば親が払わなければならないということになっていました。これは実質的には親が払うということになります。
年金は世代間扶養だと一方では言っておきながら保険料を親に払わせているのはおかしな話です。そこで学生の特例制度という制度がつくられ所得のない学生は保険料を免除されることになりました。
しかし学生は後から働いてお金を稼ぐことができるはずの人なのでこのような人たちには半分の国庫負担のぶんの給付は出さないということになりました。なので全額の給付をもらいたいという人は働くようになってから保険料を納付することが認められるようになりました。
後から納付ができるということも特例ですが免除された期間の給付が0であるということも特例の制度となっています。
今のところですが例えば60歳を超えて働き続けて厚生年金の保険料を払い続けていたとしてもその分が基礎年金には反映されません。
20歳~60歳までの間に特例を受けていた期間の部分に関しては給付を受けることはできません。
年をとっていくら働き続けていても学生時代に免除された期間の分は年金は受給できないということになります。
だからさかのぼって払わないと全額はもらえないので払いなさいということになっています。
ですがこの部分も将来制度がどう変わるかわからないところです。もし今後支給開始年齢が上がれば納付期間も長くなることが予想されます。
このようなことを考えると学生時代のぶんを今払わなくても良いんじゃないか…と考える人が多いのではないでしょうか。
3号被保険者の保険料「女性の年金問題」
3号の人は保険料を払わなくても年金を受給することができます。
ただこれには条件があって3号であった期間についての届け出をしなければなりません。
例えばその届け出をしていた期間が40年間であれば保険料を全く払わなくても基礎年金は受給できます。
もちろんそれ以外の1号や2号の期間と通算して年金の受給ができます。
ではこの3号のぶんの保険料はいったい誰が払っているのでしょうか。
3号の保険料は2号の被保険者が全体で支払っています。
個々に3号のご主人が奥さんのぶんの保険料を払っているわけではありません。2号全体で3号全体の分の保険料を支払っているという仕組みになっています。
女性の年金問題
専業主婦であれば保険料を1円も払わなくても年金がもらえる。そしてその分は働いている人全体が払っています。
奥さんであっても自分が働いて給料をもらっている人も多くいます。そのような人たちの保険料が専業主婦で保険料を払わない人たちの保険料に使われているということです。
つまり専業主婦の人たちの分まで働いている奥さんが払っているということになります。
その他にも130万円以上稼ぐと1号被保険者になります。それ未満だと3号のままです。
1号になった途端に16,340円毎月保険料を支払わなければならなくなります。
なのでこの130万円をほんの少し超えてしまうとかえってマイナスになってしまいます。
なので働く意欲や能力はあっても、この程度で止めておこうというインセンティブを与えることになります。
そして女性の社会進出を年金制度が阻害する、妨害しているということがいわれています。
この問題は医療保険制度にも存在します。
たとえば旦那さんが会社の健康保険に入っていて奥さんが130万円以上稼いでしまうと奥さんは国民健康保険の保険料を支払わなければならなくなります。
しかもそれは奥さんが払うのではなく旦那さんが支払います。
130万円未満であれば被扶養者ということで保険料は支払いません。そして旦那さんが健康保険組合に払う保険料が増えるわけではありません。
年金制度が保険料を払わなくても年金がもらえるという特別な概念をつくってしまいました。そのため「女性の年金問題」というかたちで現在も議論されています。
まとめ
私たちが毎月支払っている保険料はかなり高額なものです。
サラリーマンの方は「手取りいくら」で給料をもらっているためその保険料に関しては無頓着な方も多いと思います。
国民年金の月額16,340円は一般の家庭にとっては結構な負担となります。
まったく働かない、ほんの少ししか働かないことで得をする。という仕組みが女性の社会進出を阻害する制度となってしまっている、というのが今の日本の年金制度の現状です。
参考資料
社会保障を問い直す/中央法規出版/2003.4.1/植村尚史著
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