年金の場合は保険者は国でその実施は日本年金機構がおこなっています。
医療保険は会社ごとの健康保険組合や全国健康保険協会、市町村など保険者がたくさんいるのでその実施体制は複雑なものになっています。今回は医療保険の保険料の徴収や運営管理について説明します。
【医療保険財政の制度分立】 に関してはこちらをご参照ください。
全国健康保険協会
協会けんぽは以前は社会保険庁が保険者となっていました。平成20年の10月から全国健康保険協会が保険者となり協会けんぽとなりました。
全国健康保険協会といっても日本年金機構のように保険全般を管理しているわけではなく、保険者の1つです。
下の図は全国健康保険協会を説明するものです。
※事業所の適用や保険料の徴収の業務は社会保険庁において厚生年金業務と一体的におこない、保険給付に必要な財源は厚生労働省から協会に交付金として交付する
全国健康保険協会は日本年金機構のような窓口事務所は持っていません。基本的には都道府県の支部があり都道府県ごとに運営をしています。
そして全国健康保険協会は保険料の徴収をしていません。
この協会けんぽに入っている会社は同時に厚生年金にも加入しているはずということで日本年金機構が厚生年金の保険料と協会けんぽの保険料を一緒に徴収しています。
つまり協会けんぽの保険料の徴収と管理は日本年金機構がおこなっているということです。
全国健康保険協会は保険者ですが保険料の徴収はおこなっていません。同じ厚生年金に加入していても健康保険組合を持っている会社もあります。健康保険組合の方は自分で保険料を徴収することになりますが協会けんぽのぶんは日本年金機構が徴収することになっています。
これは昔社会保険庁で1本で徴収していたのでわざわざ分けるのと煩雑になるということで現在も日本年金機構がその管理をおこなっています。
その他の保険者と運営
国民健康保険の保険者は今のところは市町村です。
そして公務員の場合は共済組合となります。公務員の共済年金は厚生年金に1本化されましたが医療保険の共済組合はまだ残っています。
この他一部、同業者のあつまりである国民健康保険組合というものがあります。
これは医者や弁護士などの比較的恵まれている人たちの集まりになっています。
ほかに後期高齢者医療制度があります。これは都道府県単位で市町村が集まってつくる後期高齢者医療広域連合が保険者となります。
国民健康保険は平成30年度から都道府県責任主体となるということで現時点(2021年現在)保険者は市町村であり都道府県であるという二重保険者という状態となっています。ですが保険料の徴収や給付にかかる事務などは市町村が引き続きおこなうことになっており実は運営体制はあまり変わっていません。
医療保険の保険料
保険料の金額は年金のように全国一律にはなっていません。
保険者がそれぞれ決めることになっています。
それぞれの保険者が必要な保険料を決めて被保険者から徴収しています。
ただし全国健康保険協会のようなサラリーマンを対象とした健康保険では給与に対して一定率というかたちで徴収しています。
国民健康保険は給料という概念がない人たちの集まりのはずなので所得と資産と人数、更に頭割りという4つを総合してどの割合にWeghtをどれくらいつけていくかを市町村が一定の範囲で条例で決めています。
これがバラバラだと都道府県は困るので都道府県ごとに一律化するという方向で動いています。
保険診療のお金の流れ
私たちは病院へ行ったときに窓口で保険証を提示します。これがいずれかの保険制度の被保険者であるという証明書となります。これを提示すると保険から給付が受けられるという仕組みになっています。
保険からの給付は医療そのものが「現物給付」として給付されます。その際自己負担額として一般の場合は3割を支払います。
保険医療機関と保険医
医療機関側は保険証を提示されて医療をしてくださいと言われたら保険診療をしなければなりません。ですが中には保険診療はしたくないという医師もいます。そのような場合は保険の医者にならなければ良いということです。
逆にいうと保険で診療するための医者になるためには医療機関としては保険医療機関の指定を受け、医者本人は保険医の指定を受けなければなりません。
なのでこの指定を受けなければ保険以外での治療をする医者になれるということです。
この指定は厚生労働大臣がおこなうことになっています。ですが実際は地方厚生局という機関がおこなっています。申請して指定するというかたちを取っているので申請しなければ保険医や保険医療機関にはならないということになります。
保険医になった医者は保険で定める内容の診療をしなければなりません。
この保険で定める内容とは療担規則(保険医療養担当規則)といわれ規則で決まっています。そしてその規則通りの内容で診療をおこなわないとお金は支払われないということになっています。
もしやってもいない内容の請求などをしてしまうと保険医療機関や保険医の指定を取り消されてしまいます。
その他の保険者と運営
実際のお金の流れとしては私たちは病院の窓口で自己負担分の3割を支払います。
では残りの7割は誰が払ってくれているのでしょうか。この保険診療の費用の7割を負担してくれるのは保険者になります。医療機関は残りの7割の分を保険者から受け取ることになりますがこれを毎回全て直接保険者に請求していくとなると大変なことになってしまいます。
そこで医療機関と保険者とのあいだに審査支払機関というところが入り、ワンクッション置くかたちになっています。
診察をした医療機関はこの審査支払機関、健康保険の場合は社会保険診療報酬支払基金に、国民健康保険の場合は各都道府県の国民健康保険団体連合会に請求をします。
ここで保険診療として適切な内容の診療をしているかどうかのチェックします。
このチェックした結果不備があればこれを差し戻しというかたちで戻してしまいます。
ここで請求が通れば審査支払機関が保険者に代わって医療機関にお金を払います。そしてその分を保険者に請求するという流れになっています。
医療保険制度はこのようなかたちでお金が流れていくという仕組みになっています。
まとめ
日本は会社ごとに保険組合が存在します。そしてこの会社ごとの保険組合の中で保険の管理運営をおこなっています。また働いていない人は大抵は国民健康保険に加入しておりその財政責任は現時点では市町村にあります。
このように日本の医療保険制度の運営は複雑にわかれています。
参考資料
社会保障を問い直す/中央法規出版/2003.4.1/植村尚史著
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